
表側矯正とはどのような矯正方法?
「表側矯正」とは、文字通り歯の表側に装置をつけて行う矯正治療です。「ラビアル矯正」「表面矯正」と呼ばれることもあります。いわゆるワイヤー矯正、ブラケット矯正と呼ばれる治療法のことで、矯正のなかでは歴史が長く実績も豊富でオーソドックスな治療法です。
ブラケットという部品(ボタンのようなポッチ)を金属などのワイヤーでつなげる、マルチブラケット装置を使うのが一般的です。場合によって「顎間(がっかん)ゴム」または「エラスティックゴム」という医療用のゴムを使ったゴムかけを行なう場合もあります。
歯の表面に装置をつけるため目立ちやすく審美的な欠点はありますが、適応症例が幅広く矯正治療としての実績数が多いため、多くの矯正歯科で採用されているのが、この表面矯正による治療法です。ブラケットとして使用する部品は金属製のものや、透明性の高いセラミック製のものなどいくつか種類があります。金属製のブラケットは強度があるため、歯の移動を効率的に行うことができます。
歯並びや症状によって治療期間やかかる費用に差はありますが、比較的費用が抑えられることが多い治療法です。
こんな人に向いている
- 矯正料金を少しでも安くおさえたい
- 自分の症例に着実に効果がある矯正装置を選びたい
- 発音や滑舌が悪くなるのをできるだけ避けたい
- 矯正装置を取り外して掃除するのは面倒くさい
- 骨格が歪んで歯並びがかなり乱れている
- ワイヤー矯正が目立ってもかまわない
- 時間が不規則な仕事なので装着時間などを気にしたくない
表側矯正の
メリット・デメリット
矯正といえば表側矯正といわれるほど、歴史が長くオーソドックスな治療法として知られる表側矯正。費用が比較的安いことや、ほとんどの症状に対応できるなど、さまざまなメリットがあります。ただし矯正装置が目立ちやすい、食べかすが引っ掛かりやすいといったデメリットもありますので、両方を認識しておくようにしましょう。
-
表側矯正のメリット
- 矯正のなかでも比較的費用が安い
- ほとんどの症状に対応できる
- 発音や滑舌への影響が少ない
- 裏側矯正に比べて衛生的な状態を保ちやすい
- 矯正中も食事がしやすい
- 治療期間が比較的短い
表側矯正のメリットの第一は、矯正費用を比較的安く抑えられることです。矯正には表側のほか、裏側矯正、マウスピース矯正がありますが、そのなかでも表側は料金が安い傾向にあります。歯の裏側は形状が複雑で装置を取り付けるための高度な技術が必要なので、裏側矯正のほうが技術料が高くなる傾向があります。
矯正費用をなるべく抑えたい、節約しながら確実に歯並びを改善したい人で表側矯正が可能な場合は、治療法の第一候補として考えるとよいと思います。なお、費用は地域や医院によって違いがあるため、事前にしっかりリサーチしておきましょう。
表側矯正は、矯正治療のなかでも歴史が長く、古くから活用されてきた方法ですから治療実績も豊富です。そのため適応症例の範囲が幅広く、ほとんどの症状に適用することができます。
他の矯正法では対応できないケースでも、表側なら治療できるケースが少なくないのです。自分の症例に適した治療法や装置で矯正したい方におすすめできます。
表側矯正は、歯に装置をつけることよる発音・滑舌への影響が比較的少ない治療法です。例えば、裏側矯正は歯の裏側に装置をつけるため、舌に装置があたって喋りにくい場合がありますが、表側は舌に装置があたらないため、発音への悪影響を最小限に抑えられます。
装着した直後は違和感を覚えるかもしれませんが、少しずつ慣れていってだんだん気にならなくなるはずです。
表側矯正は裏側矯正に比べて、矯正中の虫歯や歯周病になりにくい治療法です。歯の裏側に装置がある裏側矯正は、食べかすや汚れの位置を確認しづらく、歯磨きも難しくなりますが、表側は汚れの位置を目で確認しながらブラッシングができます。裏側より行き届いた口腔ケアを行うことができ、衛生的な状態を保てます。
歯ブラシでのケアがうまくできない場合は、水流による口腔洗浄器で食べかすをきれいにしてから、歯磨きをするといいかもしれません。
表側矯正は裏側矯正に比べて「食事」がしやすいとされています。裏側矯正の場合は歯の裏側に装置をつけるため、装置に舌があたって違和感を感じます。
一方、表側は舌に装置が触れることがないため、食事への影響はほとんどありません。舌の動きが阻害されないのが大きなポイントです。表側は裏側に比べて、矯正中でも普段通りに食事が楽しめるはずです。
一般的に表側矯正の治療期間は、裏側矯正に比べて短いといわれています。矯正治療の症例や実績のなかでも、表側矯正によるものがいちばん多いため、歯科医師の技術も確かなものになっていく傾向があります。着実に効果が出せる治療ができれば、治療が長引くことは少なくなります。
もちろん実際の治療期間は個々の症例や程度によって変化していくものなので、表側矯正であればすべて治療期間が短くできるというわけではありません。ご自身の歯並びや矯正治療のゴールによって、治療期間が変わってくるからです。
インビザラインのように3Dシミュレーションができる治療法ではないので、治療を始める前に「治療完了のイメージ」をできるだけ具体的に持てるように、担当医師からしっかり説明してもらうようにすると安心です。歯科矯正の場合、患者側が受け身一辺倒ではうまくいかない場合もあるので、積極的に質問するくらいの姿勢で治療に臨むようにしてください。
-
表側矯正のデメリット
- 矯正していることがバレやすい
- 口元の厚みが増し突出したように見える
- 食べかすが引っ掛かりやすい
- 口内炎ができやすい
- 日常生活が制限される可能性がある
- 食事や歯の食いしばりにも注意が必要
表側矯正は、矯正をしていることが周囲にバレやすいのがデメリットのひとつです。歯の裏側に装置がある裏側矯正に比べて、表側は歯の表面に装置を取り付けるため、目立ちやすく、ちょっと口を開いただけでも気づかれてしまいます。
少しでも目立たないようにしたいという場合は、透明性の高いクリアブラケットやホワイトワイヤーなどの矯正装置を選ぶとよいでしょう。ただ、一般的な金属ワイヤーやブラケットと比較すると、少しだけ費用が高い場合が多いようです。
表側矯正の場合、口を開かなくても審美性は裏側に比べて劣ります。なぜなら、歯の表側に装置をつけることで、口元の厚み(ボリューム)が増し、口が前に突出しているように見えるからです。
審美性が落ちるだけでなく、口元の厚みが増すことで口が閉じにくくなってしまうこともあります。冬場など乾燥する季節は口の中が乾きやすくなりますので、体調管理にも注意しなければなりません。
表側に限ったことではありませんが、装置を用いて矯正する場合は、食事中の食べかすが引っ掛かりやすいです。表側は裏側に比べて目立ちやすいですが、そのつど鏡で確認しなければ気づけないので注意を要します。
一人ならまだしも、外で会食中となれば大変です。装置に挟まったカスが相手に見えてしまうかもしれません。しかも放置すれば歯に汚れが蓄積し、虫歯や歯周病のリスクを高めてしまう可能性もありますので、食後には必ず鏡でチェックする習慣をつけるようにしましょう。
装置を使った矯正はいずれもそうですが、矯正中に口内炎になりやすいとされています。ブラケットやワイヤーなどの器具が口内のデリケートな皮膚と接触し、傷つけてしまうことがあるからです。それによって口内の皮膚がダメージを受け、口内炎が起きてしまいます。
口内炎のできやすさには個人差がありますので、普段から口内炎になりやすい人はあらかじめ医師に伝えて、予防策などがないか聞いてみましょう。たとえば対処法として矯正用ワックスを装置に貼る、といった方法があります。
表側矯正の場合、とくに制限されやすいのが激しいスポーツやトランペットなどのように口にマウスピースを押し付けるような楽器の演奏を避けるよう指導されます。口の中に金属製の矯正装置を入れている場合、その装置で口の中を切ることがないように、気を付けなければなりません。したがって過度な運動や特定の楽器演奏を控えるよう指導されることが多いようです。
また人間ドックなどで頭部のMRI撮影をしたい場合、金属ワイヤーなどは外してから検査を受けるように、と指示される可能性があります。MRIは撮影時に強い磁力や電波が発生するため、矯正器具のワイヤーが動いてずれてしまい頬に刺さるといったリスクや、金属に反射して筋状の線が発生するハレーションという現象が起こって診断の妨げになることがあります。
またMRI撮影の医療機器に矯正装置の一部が吸い寄せられてしまうと、機器の故障につながりかねないそうです。金属製の矯正装置を付けている場合は、担当の医師や放射線技師に相談したうえで、必要に応じて矯正装置を外すことになるかもしれません。チタン製のブラケットであれば外さずに検査を受けることも可能なようですが、もしも頭部MRI検査を受けることが決まったら、すぐに通っている歯科クリニックに相談するようにしてください。
口の中はもともと非常にデリケートな組織ですが、口内に異物があることでさらにデリケートになる可能性があります。また歯の状態も日々変わっていきます。人によっては食べられないものが出てきたり、固い食べ物は細かくしないと食べられなかったりします。
また歯を動かす(矯正する)治療をしている最中は、上下の歯で思い切り噛みしめる、歯を食いしばることができません。歯が動いているあいだは上下の噛み合わせが安定しないため、強く噛むことで痛みが出ることもありますし、歯が欠けてしまうこともあるので注意が必要です。就寝中の歯ぎしりなども気を付けなければなりません。
昨日までは問題なかったのに、今朝は痛みを感じるということも多々あります。いつ痛みを感じるか、痛みがなくなるかは予測が難しいので、その都度口内の「体調」と向き合いながら食事を含む日常生活を送ることが大事です。
総括:表側矯正を考えている人へ
表側矯正を検討している方は、上記のメリット・デメリットを理解したうえで、自分がどんな矯正治療法を求めているか、なにを優先したいかを整理しておきましょう。
そのうえでクリニックに相談しカウンセリングを受けることをおすすめします。矯正治療の経験が豊富な歯科医師に相談することで、自分に表側矯正が向いているのか、最終的にどの矯正治療法が自分の歯並びや症状に適しているのか、なるべく複数の選択肢を提案してもらうようにしましょう。
自由診療は費用的な負担も大きくなりますので、専門家の提案を聞きながらも最終的にはどの治療法を選ぶかは、ご自身で判断するしかありません。間違った判断をしないためにも、ある程度の知識を頭に入れてからカウンセリングを受けるのがベターです。
表側矯正の種類とほかの矯正装置との違い
先ほども少し触れましたが、表側矯正、いわゆるワイヤー矯正はブラケットという部品とワイヤーを使用する「マルチブラケット」という装置を使用します。
ブラケットとワイヤーにもいくつか種類がありますので、少し説明しておきます。
メタル(金属)ブラケット
メタル(金属)製のブラケットはいちばん一般的な装置で、よく矯正治療に使用されているものです。メタルのブラケットを歯の表面に取り付けて固定し、ワイヤーを通して少しずつ全体に力をかけながら歯を動かしていきます。金属製のため目立ちやすいデメリットがある一方、丈夫で衝撃につよく、対応できる症例も多く、比較的費用も安くおさえられるのがメリットです。
クリアブラケット
文字通りクリア(透明)なブラケットを使用した表側矯正です。歯を動かすしくみはメタルブラケットと同じですが、ブラケットが透明に近いプラスチック素材でつくれているため、目立ちにくいのがメリットです。多くの症例に対応し、費用も裏側に比べておさえられますが、食べ物・飲み物で着色する場合があります。またメタルブラケットと比べると、強度が落ちます。
セラミックブラケット
歯の乳白色に近いセラミック製のブラケットです。セラミックは汚れが付きにくいため、食べ物による着色や変色が防げますし、なにより矯正装置が目立ちません。審美的にも優れているため、クリアブラケットやセラミックブラケットを「審美ブラケット」と呼ぶこともあります。金属アレルギーがある場合などは、このセラミックブラケットを使用します。ただ、メタルブラケットと比較して費用が高くなることと、まれに割れてしまうなど強度的なリスクはあります。
矯正用ワイヤーにも目立たないものがある
「矯正治療中であることが悪目立ちする」というデメリットをカバーする表側矯正装置もあります。目立たないブラケットだけでなく、矯正ワイヤーにも「ホワイトワイヤー」「ゴールドワイヤー」「シルバーワイヤー」といった審美的なワイヤーを用意してくれる矯正歯科もあります。治療前にどのような選択肢があるか、画像などで見せてもらうようにしましょう。
表側矯正と裏側矯正の違い
表側矯正と裏側矯正、表側矯正とマウスピース矯正の違いについても以下に整理してみました。ご自身の歯並びや矯正の難易度など個別の状況によって推奨される治療法が異なりますので、参考程度に考えていただければと思います。
装着する位置の違い
表側矯正と裏側矯正の決定的な違いは、装置を取り付ける位置の違いにあります。裏側矯正は歯の裏側に、表側矯正は歯の表側にそれぞれ装着します。裏側は口を開けても目立ちにくいですが、表側矯正は目立ちやすく人に気づかれやすいです。
しゃべりやすさの違い
舌に装置があたる裏側矯正は発音や滑舌が悪くなりやすいですが、舌に装置が触れない表側矯正ではほとんど影響がありません。
衛生面の違い
裏側矯正は装置が歯の裏側にあり歯磨きがしにくいですが、表側矯正は食べかすが引っ掛かっても目視で確認できるため、歯磨きがしやすく衛生面を保ちやすいです。
費用の違い
地域や医院によって違いがあるため一概にいえませんが、一般的には裏側矯正のほうが求められる技術レベルが高いとされており、そのぶん費用が高くなります。表側矯正のほうが費用的に抑えられます。
表側矯正とマウスピース矯正の違い
装着方法の違い
マウスピースでは患者本人が装置を装着しますが、表側矯正は歯科医師がクリニックで矯正装置を取り付けます。またマウスピースは自由に取り外しができますが、表側矯正の場合はは装置が固定されるため、自由に着脱ができません。
痛みに関する違い
プラスチックの弾性を利用して歯を動かすマウスピースに比べて、ワイヤーの力で歯を引っ張る表側のほうが痛みを感じやすいと言われています。
審美性の違い
透明な素材を用いるマウスピースは装着した状態でも目立ちにくいですが、表側矯正でメタルブラケットを使用する場合は、矯正装置が目立ちます。ただし、透明なクリアブラケットやホワイトワイヤーを使用すれば表側でも目立たなくすることができます。
食事の違い
着脱自在のマウスピースは矯正中も自分の歯でこれまでと変わりなく食べられますが、表側矯正は装置が固定されるため、食べにくさを感じたり、食べやすいものを選ぶようになったりします。
衛生面の違い
マウスピース矯正の場合は装置を取り外して通常どおり歯が磨けますが、表側矯正では装置の周りに食べかすや汚れが溜まりやすいため、治療前より丁寧なブラッシングが必要です。
表側矯正の治療を受ける際の留意点
地域やクリニックによって費用に差がある
表側矯正は裏側矯正に比べて比較的費用が安いといわれますが、矯正治療は自由診療(健康保険適用外)であるため、各院が自由に料金を設定することができ、地域によっても相場が異なります。仮に全国平均の費用相場が安くても、自分が通院する地域の歯科医院が安いとは限りません。
さらにその歯科クリニックの治療方法や使用する機材などによっても費用が変わる場合があります。さらに医師の実績や技術が高ければ、矯正費用も高くなる可能性があります。
ある程度知識を入れてカウンセリングに臨む
自分に合った質の高い表側矯正を受けるためには、治療前のカウンセリングが重要です。患者側からカウンセリングの場で矯正に関する要望を伝えたり、悩みを相談したり、わからないことを質問したりもできます。互いに密なコミュニケーションを重ねて信頼関係を構築することも、治療を成功させるポイントになります。
医師側も十分にカウンセリングを行うことで、患者さんの状態を正確に把握し、一人ひとりに適した治療法が提案できます。表側矯正に限らず矯正治療を受ける際には、患者の話をきちんと受け止めてくれて、丁寧にヒヤリングしてくれる歯科クリニックを選ぶようにしてください。