
矯正を躊躇する最大の理由「痛み」痛くない
矯正はある?

大なり小なり矯正に痛みはつきもの
矯正治療中の悩みで多いのが、痛みの問題。歯並びや治療方法、矯正装置の種類によって痛みの度合いは異なりますが、まったく痛みを感じないという人は少ないはずです。ただ痛みは非常に主観的な感覚なので、感じ方に個人差があります。同じような痛みでも、ある人にとっては耐え難く、ある人にとってはそれほどでもない、という場合もあります。
まず歯列矯正によってなぜ痛みを感じるのかについて、痛みの原因について説明していきます。そのあとに、痛みを軽減させる治療法や痛みが出たときの対処法などについて紹介していこうと思います。痛いのが苦手で矯正に踏み切れないというかたは、参考になさってください。
歯列矯正で痛みを感じる原因
矯正治療で痛みには、大きく分けて2つの原因があります。ひとつは、矯正装置によって歯が動くことによって生じる痛み。もうひとつは、矯正装置が口内の粘膜を傷つけるなどして口内炎を発症するといった、炎症によって生じる痛みです。
歯並びの状態や矯正の難易度や強度、装着する矯正装置のタイプによって痛みの感じ方が変わります。骨や歯にも個人差がありますし、口内炎になりやすい人とそうでない人の違いもありますが、痛みが生じるメカニズムを理解しておけば、対処法も明確になります。
歯が再生・動くことによる痛み
カウンセリングで歯科医師から説明があるとは思いますが、矯正治療で歯を動かす仕組みを簡単に説明しておきます。
歯は歯槽骨という骨が土台になって支えられています。歯を動かしたい方向に矯正装置で力を加え、歯槽骨に刺激を与えて歯を溶かして(吸収して)歯が動き、生まれた隙間に骨ができる(再生)といった「骨のリモデリング(骨の組織変化)」が起こります。
骨の組織変化による炎症反応が生じることで痛みを感じるのですが、この痛みは骨が吸収されるときに発生する、「プロスタグランジンE2」という痛みの原因物質が引き起こすものです。当然のことながら、強い圧(力)をかけて歯を動かす必要がある人は、痛みの度合いも強くなる傾向があります。
ただ、虫歯で歯が痛いときにどうしているかを思い出してほしいのですが、すぐに歯科医院にいけないときはどうしていますか?薬局で購入できる抗炎症剤、いわゆる「痛み止め」を飲んで痛みを軽減させているのではないでしょうか。矯正治療による痛みも同じことで、処方される痛み止めなどを飲めば、ある程度の痛みはやわらぐはずです。
鎮痛剤などの強い薬は副作用が心配だという人は、矯正装置に加える力を弱めるなどして、痛みの度合いを調整しながら治療を続けるようにしてください。
抜歯による痛み
矯正治療の際、歯を動かすスペースを確保するために抜歯を行う場合があります。どの歯をどういった方法で抜歯したかにもよりますが、麻酔が切れてズキズキとした痛みが出てくることや、歯を抜いたための炎症反応で腫れを伴う痛みがある、といったことが考えられます。
抜歯してから数日は痛みますが、鎮痛剤や口腔内の洗浄剤などを活用しながら、幹部をできるだけ清潔にするように心がけましょう。
食事による痛み
歯が動く痛みに加えて、食べ物を咀嚼する際に痛みを感じる人も多いと思います。矯正装置に舌の先が当たって痛みを感じる場合なども、食事のたびにその痛みをがまんしなければなりません。
この場合も根本的な解決法はないのですが、咀嚼しなくても食べられるスープやリゾットなど歯に負担がかからない料理を選んで、食事による痛みを軽減させるようにするしかありません。
参照サイト
いぬきデンタルクリニック 歯科コラム「矯正治療は痛い?痛みは減らせる?痛くないと歯が動かないって本当?」(https://www.inuki-dc.com/blog/orthodontics-pain/)
すずき矯正歯科公式ブログ「矯正治療に痛みは付き物なのか?痛くなくても歯は動くの?」(https://www.suzuki-or.com/blog/orthodontics-pain/#i-10)
痛みの原因別対処法
矯正で痛みを感じる原因によって対処法は異なりますが、ここで改めて歯の動き方や痛むタイミングについて説明しておきます。
ワイヤー(ブラケット)矯正の場合、1か月に1~1.5mm程度を動かす目的で力をかけるのが一般的です。そのためある程度の力を一度に加える必要があり、これが痛みにつながります。ただ、治療中ずっと痛いわけではありません。強制力が加わった日(矯正装置を装着して力を加える治療をした日)から3日間程度で歯が少し動きますが、この3日間がもっとも痛みを感じやすいとされています。
歯の吸収・再生が原因の場合
矯正装置にかける圧(力)を調整
歯が動くために多少の炎症反応があるのは致し方のないことですが、痛みに弱いという人もいらっしゃると思います。そんな場合は、より弱い力で歯を動かすマウスピース型矯正装置を選ぶとよいかもしれません。歯を動かす量が多ければそれだけ強い力が必要となり、歯を動かす量が少なければ弱い力で済むことになるからです。
たとえば「インビザライン」の場合、平均して14枚のマウスピースを2週間程度で交換していきますが、1枚で動かすのは約0.25mmと決められているマウスピース矯正システムです。小さな力で少しづつ歯を動かしていくため、それだけ痛みを感じにくい治療法であるといえます。ただし通常の治療法より治療期間が長くなる可能性があります。
ワイヤーを使った表側矯正や舌側(裏側)矯正の場合でも、形状記憶合金のワイヤーなどを使ってより弱い力で矯正治療をすることもできますので、担当の歯科医に相談してみてください。一般的なワイヤー矯正よりも費用がかかる場合があることと、弱い力で矯正することにより治療期間が長くなる可能性があることなども念頭に入れ、治療計画を検討していくようにしましょう。
時間の経過による慣れを待つ
歯の動きによる痛みはずっと続くわけではなく、歯に力を加えた直後の3日間がピークです。この3日間をクリアできれば、矯正治療による痛みとは折り合いがつくはずです。先ほども説明しましたが、歯にかかる力を弱くすれば痛みも軽減されますので、毎月の診療でうまく調整しながら、できるだけ痛みのストレスから解放される治療を継続してください。
痛みを感じる感覚というのは主観的なものであるため個人差があります。ある人にとってはがまんできる痛みでも、別の人にとってはがまんできない痛みになる場合もあります。また異物感や痛みには、次第に慣れていくものです。担当の歯科医師とその感覚を共有しながら、うまく痛みと付き合うことが矯正を成功させるコツです。
鎮痛剤(痛み止め)など薬の服用
矯正治療をスタートさせたばかりの頃は特に、炎症による痛みに参ってしまうことがあります。そんなときには、鎮痛剤(抗炎症剤)を処方してくれるはずです。治療期間はなるべくOTC薬(市販の薬)は服用せず、医師から処方してもらった薬を飲むようにしてください。なぜなら、薬によっては「歯の動きを止めてしまう」可能性があるからです。
町田駅前矯正歯科の公式サイトには以下のように説明されていました。
「鎮痛剤の中には動きは、飲む量によっては、歯の動きを弱めてしまうものがあります。これは歯の動きは、炎症作用が起きることによって動いている反面もあるので、全く起こさないようにしてしまうと、歯も動かなくなってしまうということです。」
アスピリンやロキソニンであれば低用量なら問題ないそうですが、ロキソニンよりも強い痛み止めであるボルタレンは、抗炎症作用が強く働くため、歯の動きを完全に止めてしまうのだそうです。ですから、自己判断で薬を飲まずに、医師の処方に従うようにしてください。
ソフトプレートを使う
歯のアーチに沿ったU字型の柔らかい素材のプレートです。これを10回ほど噛むとズキズキした痛みが緩和されます。ソフトウエハースとも呼ばれています。歯科医師に相談して処方してもらうことができます。
だいたい8割くらいの人は効果を実感できるようです。矯正治療中に携帯しておけば、お守りのような存在になるかもしれません。歯のアーチに沿った形をした柔らかい素材で、痛みを感じたときにこれを10回程度噛むことで、痛みを和らげます。別名では、ソフトウエハースとも呼ばれています。
レーザー治療
レーザー光を歯肉に照射して、あたためることで活性化していく方法です。レーザーにはさまざまな種類がありますが、放射線を含まない組織に浸透しやすいものが使われます。炎症を抑え、血行を良くするため、口内炎にも効果があるだけでなく、歯の動きも良くなると言われています。
高周波治療
もともとは骨折の治癒促進で使われていた方法です。血行を良くし、歯槽骨の代謝を上げる効果があり、それにより痛みが軽減されると言われています。
そのほか自分でできる方法
そのほか自分でできる対処法としては、食塩水で口を漱ぐこと、頬や顎などに氷嚢を当てたり、小さめの氷を口に含んで転がすことで口の中を冷やすこと、電動歯ブラシによって歯茎をマッサージして血行を良くすることなどがあります。
どうしてもがまんできない痛みであれば、矯正装置を緩めてもらうなどの処置も含め、担当医に相談してみることをお勧めします。
矯正治療のための抜歯が原因の場合
矯正に限らず、通常の抜歯と同じです。歯茎の奥に生えていた歯を抜いた場合はその傷口が治るまで痛みが続きます。どうしてもがまんしきれない場合は、鎮痛剤で痛みを散らしましょう。
食事に関する違和感
矯正の痛みのために食事がとれなくなって、体調を崩してしまっては、それこそ元も子もありません。痛みがあって食事がしづらいときは、あまり噛まなくても食べられるメニューにする、硬い食べ物を避けるようにするなど、調理方法や食材選びを工夫すると良いでしょう。矯正装置の種類にもよりますが、痛みも口の中の違和感も、時間経過とともに慣れていきます。どのようなことに気を付ければいいか、整理しておきます。
調理方法の工夫
材料は口の中に入れやすい大きさに切りましょう。やわらかくて噛みやすい食材を選んだり、歯ごたえのあるものを使う場合はあらかじめ焼いたり、ゆでる、蒸すなどして下準備をしましょう。お肉なども焼きすぎて固くなると食べにくくなってしまうので、小さく切ってから焼くといった工夫をしてみてください。
歯に挟まりやすい皮がある場合はきちんとむく、繊維質の多い野菜は生で食べないようにするというのも有効です。また刺激のある食べ物、カレーや火鍋などは避けた方が良いでしょう。炎症反応が出ている場合は、刺激物は避けるのが鉄則です。
メニューの工夫
例えば、にんじんやキャベツなどの野菜をたっぷり入れて、皮無しウインナーを煮込み、コンソメで味付けをしたポトフ。白菜や豆腐、エノキやネギ、豚肉の入った鍋。色々な材料が入っており、しっかり火を通して柔らかくするような煮込み料理や鍋料理は、矯正治療中に取り入れたいメニュー。スープなどに片栗粉を入れてとろみをつけると、スプーンで口に運びやすくなります。ただし火傷をしないように注意してください。
矯正の痛みは風邪などで体調が悪さからくるものではないので、お粥だけという食事はお勧めできません。ご飯はいつもより柔らかめに炊く、小さく切ったいろいろな具材を入れた炊き込みご飯や雑炊なら、栄養バランスもばっちりです。矯正治療の期間は平均して1年から2年と長期に及びますので、矯正装置とうまく付き合いながら、ご自身の食事管理をしていくようにしましょう。
口の中に傷・口内炎ができた場合
矯正用ワックス
装置が粘膜や歯茎に引っかかってしゃべりにくい、装置が当たって傷ができてしまう、口内炎がたくさんできてしまうといった場合には、矯正用のワックスを使って痛みを軽減することができます。矯正用ワックスにはさまざまな種類がありますが、通院しているクリニックにどのようなワックスがあるか事前に確認しておくと安心です。
ちぎって丸めて使う物やシリコンタイプなどがあり、当たって痛いブラケットの場所を覆うようにして使います。またワイヤーが外れてしまったときなどの応急処置にも使えます。ただしあくまで応急処置なので、なるべく早くクリニックに行って矯正装置を直してもらうようにしてください。
リップガード
吹奏楽などをしている人が矯正をした場合、演奏中に唇の裏側に装置が当たってしまい痛いことがあります。そうした際に使えるのがリップガードです。ご自分に合わせて長さを切り、調節して矯正のワイヤーに挟み込んで使用します。こうすることにより唇が直接装置に触れることを防ぎます。リップガードは繰り返しの使用が可能です。
ブレースガード
矯正装置の厚みにまだ慣れていないときは、頬の内側に装置が当たって痛く感じることがあります。そうした痛みにはブレースガード(ブレイスガード)で対応することができます。細長いシリコンで、ちぎってブラケットを覆うように貼り付けて使います。付けたまま食事もできますし、食べてしまっても害のない素材でできています。
装置が外れるなどの不具合
口内炎等の対処で使う矯正用ワックスでブラケットとワイヤーを固定して応急処置をすることができます。ですが、あくまで応急処置ですので、早めに担当の歯科医師に相談して直してもらいましょう。
矯正治療中の食事との向き合い方
食材の調理法で矯正にやさしいメニューを
矯正中は痛みが出るのを恐れるあまり食欲が落ちたり、食べ物をしっかり噛むことができずに消化が悪くなったりしてしまいますので、なるべく噛まずに食べられる消化の良い食事にしましょう。
たとえば、主食となる炭水化物はふつうに炊いたご飯ではなく、水分量が多くて噛まなくても食べられるおかゆ、やわらかく煮たコシのないうどん、噛む必要がないくらいやわらかいパンなど。また、おかずはもともとやわらかくて噛まなくても食べられる豆腐や半熟のふわふわオムレツなど。お肉が食べたいときはほぐれやすくて噛み切る必要のないひき肉を使ったハンバーグや肉団子などがおすすめです。
野菜は固いものが多いですが、やわらかく茹でてマッシュしたポテトなら噛まなくても食べられます。ビタミン類が不足しないように、食べやすく細かくカットされたフルーツ入りのヨーグルトやゼリーなど、つるんと食べやすいスイーツなどからも栄養をとるようにします。
矯正中に控えるべき食事とは?
矯正の痛みが薄らいでくると、食べるものにあまり気を使わなくなるかもしれませんが、矯正器具に食べかすが詰まったりするものや、固くて負担のかかるものはなるべく控えるようにしましょう。
たとえば、歯ごたえがある固いおせんべいやかりんとうなどのお菓子、前歯でかじるようなリンゴなどの果物や生の根野菜など。固いものは奥歯で噛めば食べられないこともないですが、欠片が器具にはさまらないように注意しましょう。
同じような理由で、細かくて器具に挟まりやすいゴマなども危険です。また、矯正器具にくっつきやすいお餅やキャラメル、ソフトキャンディなども矯正中は控えておいたほうが、矯正装置や歯に負担がかかりにくくなります。
痛くない矯正治療まとめ
つまるところ、痛くない矯正などないじゃないか!と思われているかもしれませんが、本人の苦労なしに治せる病気などないように、痛みを伴う矯正治療の先には、理想的な歯並びが待っています。矯正治療の期間はけっして短い時間ではありませんが、「この苦労を乗り越えれば理想に近づける」ことがわかっている治療でもあります。
まったく痛みが伴わない矯正治療は存在しませんが、口の中を極力傷つけずに負担を軽くして「痛みを少なくする」ことはできます。治療期間が長くなっても、少しずつ歯を動かす治療法を選べば、そのぶん痛みを軽減させることもできます。
痛みは主観的感覚であると何度も繰り返してきましたが、ご自身なりの痛みの感じ方かたを言語化して、担当の先生に相談することが肝心。そのうえで、痛みを軽減するいくつかの方法の中から、試してみるようにしてください。